似て非なる物语3139.docx

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似て非なる物语3139

異端迫害

<31>

 

 くだらぬ。

 シシリアは血に濡れた自らの愛剣に視線を落とし、顔を顰めた。

 幾ら戦っても、切り裂いても、満たされぬ。

 不快だと思う。

 それが何に起因するか、シシリアは知っていた。

 あのぼんくらのせいだ。

 いつか必ず仕置きしてやる。

 密かな決意を胸に、再び竜の背に乗ろうと足を伸ばした刹那、背中から猛然と迫り来る気配を感じ、反射的に身を翻した。

 寸での所で繰り出された牙から逃れる。

同時に胴体部を狙って剣を振り下ろした。

 切っ先が僅かに触れ、かすり傷だけを残して襲撃者は跳躍して間を取った。

 シシリアは緩慢に視線を振り向けながら、口元を嘲笑に緩めた。

「愛玩動物の分際で、この私に勝てるとでも?

「……」

 地面に着地した神獣メルフィスは直ぐにシシリアへと向きを変えて低く恫喝するように唸り声を上げた。

 空気が震え、「存在消去」能力が放たれる。

 だがシシリアは手にした剣を手の中で回転させた後、素早い動きで跳躍した。

 「虚無招来」という名の能力無効が発動し、メルフィスが咆哮に混じらせて放った「存在消去」が無効化される。

 その間に双剣をメルフィスの脳天へと向けて振り下ろした。

 辛うじて体を引く事によってメルフィスは剣閃を交わしたが、シシリアは直ぐに次の動きに入っていた。

 突き出された剣の切っ先が、メルフィスの腕の付け根部分に直撃する。

 そのままシシリアは、背後の建物に剣をつき立て、メルフィスを壁に縫い付けた。

「彼は神の使いなのよ!

 殺せば絶対神への反逆行為とみなされるわ!

「それがどうした?

 背後から響いた震える声に、感情のこもらぬ平淡な声でシシリアは返した。

「既にこやつはユアンノから見放されておる。

どこぞの気狂いに懸想などするからだ」

「……」

 メルフィスは痛みに顔を歪めながらも口を開いた。

「存在消去」の吐息を吐き出そうとしたのだ。

 シシリアは獰猛な視線をメルフィスへと向けている。

全ての能力は既にシシリアの支配下にあり、完全に封じられていた。

メルフィスの咆哮は、ただ悲しい嘆きを放つだけに過ぎなかった。

「いや、やめて!

 メルフィスを殺さないで!

 エルシナは叫んだ。

倒れふして動かないファズの側に座り込み、全身を震わせて恐怖を示しながら、シシリアを上目遣いに眺めている。

 しかし懇願などで止まるようなシシリアでもなかった。

 双剣の一本の切っ先を、メルフィスの腹の部分へとつきたてた。

 吹き出した返り血が白皙の顔面を濡らした。

「いやあああああ!

 エルシナの絶叫が大気に木霊した。

 その声に表情を変える事もなく、シシリアはメルフィスから剣を抜き去り、刃についた血を軽く拭うと、歩き出した。

 顔についた血の飛沫を拭き取る事さえしなかった。

 竜の背に乗る直前、視界の端にエルシナを捉えた。

 ファズの側で蹲り、怯えた瞳でシシリアを見上げている。

既に戦意など欠片も残っていない。

 元々エルシナ自身には何の力もないのだ。

最強たらしめていたのは、神獣メルフィスの力に因る所が殆どだった。

 何が最強だ。

 砂上の城を守ろうとするから、あやつは愚かだというのだ。

 口元を引き締め、柄を握る手に力を込める。

 だがシシリアは自制した。

 情けをかけたのではない。

 今ここでエルシナを手にかけた所で、自身の望みが適う訳ではない。

その行為に意味さえもない事をシシリアは知っていた。

 竜を操り、空へと舞い上がる。

 向かう先は目前の城、アデュッサ王国王城アデュッセリア。

 その最上階の玉座に座する男。

 迷いなく天へと進む竜をエルシナは見送る事はなかった。

ファズの体躯に顔を伏せ、震え続ける。

「私は悪くない。

悪くないわ。

……悪いのは、全部あの男よ」

 壊れた器械のように、繰り返し呟き続けた。

 

 

 巨大な手に揺さぶられるかのようにアデュッセリア全体に激震が走った。

最上階を囲む壁が轟音と共に崩れ、穿たれた穴から長大な竜が城内へと侵入を果たしたのだ。

「ひぃ」

 蜘蛛の子を散らすように、逃げ惑う重臣たち。

無数に集っていた親衛隊は果敢にも武器を手に襲い掛かって来た。

 竜の背から下りたシシリアの手には、血の飛沫を残す草薙の双剣が握られていた。

 まさに一閃。

空間を裂いたその横なぎの一撃によって、向かって来た兵士たちの殆どが飛ばされ、壁や柱に激突した。

 開けた道を、一歩ずつ歩み続ける。

決して急ぐ事のない、王者の行進の如く悠然としたその足取りに、見る者は皆恐怖を覚えたようだ。

 獲物を見据える獰猛な視線の先には、王座に座ったまま動けなくなっている国王の姿があった。

「わ、私は何も……」

 次第に近づくシシリアの歩みを止めたいのか、必死に国王は言葉を紡いだ。

 しかし国王は何故この魔族が怒り、襲撃して来たのか全く分かっていなかった。

 シシリアは鼻を鳴らして軽く笑い飛ばした。

「私は断罪しに来たのではない」

 剣の切っ先を国王の喉元へと向ける。

「悪趣味な首を一つ、狩りに来たまでの事」

 細められた視線は国王を捕らえており、逃れる術はないと理解したのか、国王は王座から立ち上がりかけて、しかし足に力が入らずに再び崩れ落ちた。

 我に返った兵士数名が再びシシリアに斬りかかって来た。

 しかし右から左へと流れるような二閃の筋で兵士たちは地べたに這い蹲る事になった。

 動く者がなくなった事を確認するまでもなく、シシリアはさらに歩を進めた。

「去ね」

 感情の見えぬ平淡な声音は凍れる響きを伴って国王へと放たれた。

 握った剣が、光の筋を描いて振り下ろされる。

 国王に出来たのは、双眸を閉じて死の瞬間を待つ事だけであった。

 しかし、痛みは一向にやって来る事はなかった。

 恐る恐る国王は瞼を開いていった。

 まさに頭上、髪の一重さえ挟まぬ位置に剣の刃があった。

 だが、そこで動きを止めていた。

 視線を転じると、シシリアの視線は国王へと向いてはいなかった。

「遅かったな、茶柱」

「……」

 はっと国王は息を呑んで振り返った。

 半分以上瓦解して形の崩れた入り口付近に立つ人影があった。

 常に目元を覆っていたはずの包帯は既に両手の中へと落ちている。

 その透明な双眸を有した人物は、ゆっくりとシシリアと国王のもとへと歩み寄って来た。

「事情は承知している。

だがやりすぎだ。

シシリア=ルシャナダーク」

 何故、ここに来た。

 国王は信じられない思いで傍らに立ったその男の姿を見据えた。

 その心を傷つけたのは自分だ。

 もう二度と、這い上がれぬ程に痛めつけたのは自分なのだ。

 そのまま死ねばいい。

いなくなってしまえばいいと、心底望み実行に移した。

 なのに何故、ここに。

この場所に立っているのだ。

「……ノートン」

 呻くように呟いたその名に僅かに男は反応を示した。

 双眸の端で国王を捕らえたが、直ぐにシシリアへと戻していく。

「カイスを凶行より守れなかった事、如何様な罰でも受けよう。

だが、アデュッサ王国を滅ぼす事だけは許さん」

「そんな事はどうでもいい事だ、茶柱。

ぬしの許しなど欲しいとも思わぬ」

 シシリアは剣を引き戻しながら、間をとる為に二歩後退した。

「生き死ににも興味はない。

勝敗など知った事か。

ただ、あやつの屍の上に立ちかけた者が、私でなかった事に腹を立てただけの事」

「腹いせ、か?

「我が望むままにな」

 シシリアは微笑を零した。

先程浴びた返り血が頬の動きに伴って、ぽたりと地面へと雫となって落ちていった。

「ならば手加減はしない」

 ノートンは手に握っていた包帯を、床へと放り捨てた。

「引いてもらうぞ、シシリア=ルシャナダーク」

 ふっとシシリアは口元を緩めた。

獲物を狙う切れ長の瞳は、揺らぐ事なくノートンへと定められた。

「茶柱の分際で、立つ以外の事ができるのであれば、やってみるがいい」

 シシリアは嘲笑を混じらせながら、挑むように剣の切っ先をノートンへと向けた。

<32>

 

 草薙の双剣。

 「虚無招来」を能力として有する魔王軍特命担当蛇見(じゃみる)の現長官、シシリア=ルシャナダークの召魂(よびたま)、「八岐大蛇」(やまたのおろち)を武器化した剣だ。

 刀身に光るは触れたもの全てを無に帰す力。

強度も性能も最高位であり、魔族の召魂能力の中でも戦闘能力において最強に属する力である。

 対するアデュッサ王国王弟、ノートン=レイズ=アデュッサの能力は魅了眼。

あらゆるものを魅了し、己が意志に従わせる精神干渉能力である。

その干渉力は世界最強どころか史上最強と評されており、本気を出したならば魅了できないものは一切存在しないと言われている。

 アデュッサ王国王城、アデュッセリアの最上階にある王座の間にて、二人は対峙していた。

 3歩の距離をおいて向かいあっている。

ノートンの手に武器は握られていない代わりに、その両眼を普段覆っている封呪帯布は既に取り払われている。

 一方のシシリアは、手に持った双剣の一方の切っ先をノートンの喉元へと向けていた。

 沈黙が下りたのは数瞬の事、先に動き出したのはシシリアだった。

 床を蹴った瞬間、右から左へと横薙ぎに振られた剣の軌道に、ノートンは後方へと跳躍しながら、両眼へと力を込めた。

 ほのかな煌きを宿した魅了眼が、シシリアへと放たれる。

 ごうっ

 息を詰めた一瞬の気合と共に全身に「八岐大蛇」の力を纏わせる。

 魅了眼の力はシシリアへと到達する前に、虚無へと絡め取られ消失した。

 その間にシシリアはもう一歩前へと踏み出し、下段から上段へと斬り上げの一撃を繰り出した。

 体を庇う為に無意識に動いたノートンの腕を浅く裂いた剣の一閃が、間を置かずに次の一撃へと流れるように続いて行った。

 しかしノートンは魅了眼の力を強める事ができない。

 狂満月の影響がまだ続いている。

周囲には多くの兵士や、何より国王の姿もある。

出力を増大させれば、それだけ甚大な影響を周りに及ぼしかねないのだ。

 距離を置こうと一歩下がるが、その度に二歩以上距離を詰められる。

元々シシリアは速さにおいて格段の能力を有しているのだ。

 瞬間、背中に壁の感触が生まれる。

 しまった、と思う間もなかった。

 肩口に灼熱の痛みを覚えた。

零れそうになった悲鳴を、辛うじて歯を食いしばる事で喉の置くへと食い止めた。

 至近距離にシシリアの顔が見える。

 双剣の一方でノートンの肩口を貫き、壁に縫いとめたのだ。

 あえて距離を詰めて刺し貫いたのは、やって来いと挑発しているからだ。

 ノートンは瞳をシシリアの双眸へと向けた。

 魅了眼の出力を解放して、シシリアを睨みつける。

 肩口を貫いていたはずの剣が、跳ね飛ばされるようにして宙を舞った。

 くるりと後方へ回転したシシリアは、床へと突き立った剣を回収し、肩を軽く回して筋肉を解した。

「相変わらず、無機物には好かれておるな」

 武器化した草薙の双剣をノートン自身が拒絶した結果であると、シシリアは瞬時に悟ったようだ。

鼻を鳴らして嘲笑する。

「……どうして貴様には効かない?

 唇を歪め流血を滴らせる肩口を手で抑えながら、ノートンは顔を上げた。

「一途なのでな。

付け入る隙などあるものか」

「カイスの首から上限定だろうが」

「無用な物体にかける情などない」

 軽く息をつき、ノートンは前へと踏み出そうとして、膝をついた。

 深く貫かれた肩口に走る激痛で、意識が遠のきそうになる。

 シシリアは剣の切っ先を床へと向けていた。

 紅の液体に濡れた刀身から形成された雫が、床の溜まりへと落ちていく。

「手加減はしないのではなかったのか?

 茶柱。

世界全土を魅了できる能力があるのであろう?

「……」

 ノートンは口を噤んだ。

 魅了眼を完全解放する事はできない。

それは絶対の条件だ。

 シシリアは薄く開いた眼でノートンを見据えていた。

感情の行方が見えない。

 ふっと短くシシリアは息を吐いた。

「あのぼんくら、絶対シメる」

 重低音で呟かれた言葉に、怪訝な面持ちを浮かべて視線を上げたノートンは、瞬間、体躯を硬直させた。

 シシリアが動き出していた。

 双剣がノートンの首筋めがけて振り下ろされる。

 かわそうと下がりかけたが、肩口の怪我のせいで足に力が入らなかった。

 尻餅をついたノートンに、シシリアの剣が迫った。

 その時だった。

 だんっ

 唐突に、シシリアが床を蹴って横へと跳躍した。

 シシリアが居た場所に、大剣の一撃が振り下ろされる。

 ノートンは瞳を見開いた。

「無事か!

 瞠目した視線の先に映る光景を、俄かに信じる事ができなくなっていた。

 大剣を重そうに持ち上げ、ノートンの前へと立ちはだかるようにして立っている人影があった。

 豪奢な外套に包まれた背中が視界に映る。

 何故と思い、その問いが導く悲しき答えにノートンは唇を噛み締める。

 

「陛下……」

 また、やってしまったのか。

「後は私がやる。

下がっていろ、ノートン」

 国王の言葉に、ノートンは首を横に振った。

「やめて下さい」

 震える声で、そう呟いた。

「やめて下さい。

……それが、私の本当の意志です」

 魅了眼をかけてしまったのか。

 誰でもいいから守ってもらいたいと浅ましくも願い、最も守りたい存在にかけてしまったのか。

 ノートンは両眼を瞑り両手でさらに覆い隠しながら、必死に首を横に振った。

「お願いです。

陛下」

 ふっと、吐息で笑った声が聞こえた。

 無造作に撫でる手の感触を頭上に感じた。

「お前が、私を兄ではなく「陛下」と、そう呼ぶようになった時から、私はもっと反省しなければならなかったのだな」

 ノートンは両手を下ろし、顔を上げて国王を見上げた。

 視線を受けて、苦笑を零すように国王は笑った。

「お前を守るのは、私の意志だ。

信じろ」

「……」

 それでも悲痛の色を宿す透明な両眼に、国王はノートンの頭を軽く二度叩くと、再び背中を向けた。

 大剣を両手で持ち、構えた。

「さあ来い。

我がアデュッサ王国を蹂躙せし悪漢よ」

 シシリアは双剣の片方を肩上に乗せて、国王を見据えていた。

 緩慢に、その切っ先を振り上げる。

 固唾を呑んでその様子を見守っている国王の全身が震えていた。

 恐怖の為だ。

常人である国王にとって、シシリア級の魔族は畏怖の対象でしかないのだから。

 駄目だ、とノートンは思う。

 駄目だ。

陛下を死なせる訳にはいかない。

 力の入らぬ足に全身の意識を集中させて立ち上がろうとした。

 その刹那、床が衝撃と共に震動し、そして一瞬にしてひび割れを起こした。

 崩落は次の瞬間に訪れた。

 轟音と共にアデュッサ王国王城が、木っ端微塵に砕け散ったのだ。

 唖然と見上げるノートンの視線の先で、竜の背に乗ったシシリアが冷たい微笑を下ろして来た。

「開き直った熱血莫迦を相手に勝利するのは享楽ではなく労働。

非生産の上時間の浪費というものだ――それに、ここで得る勝利程無駄なものはなかろう」

 はっと、ノートンは息を呑んだ。

 シシリア=ルシャナダークは知っているのか。

 真実を。

 問いかけを発しようとしたが、視界を塞ぐ瓦礫に隠れてシシリアは見えなくなってしまった。

 その瞬間、自身の体躯に覆いかぶさる影があった。

「……陛下!

 崩落は止まない。

床が砕け散り、ノートンを含め王座の間に居た全ての者が地上へと落下した。

その降り注ぐ瓦礫からノートン自身を自らの肉壁で守る為に、国王はノートンの体躯を抱きしめたのだ。

 どれ程抗っても解ける事のない両腕に、ノートンはただ絶望を感じた。

<33>

 

 寝台の上に横たわるカイスへと一瞥を向け、唇を引き締めて気合を入れなおすと、ニーケットは後ろを振り返った。

「ほな、治療するで」

「ニーケット」

「なんや?

 返って来たのは自らの名を呼ぶ険しいティノの声であった。

 ニーケットは訝しげに首を傾けて顔だけを振り向けた。

「駄目だ」

 卵型の顔を伏せ、呟くようにティノは言った。

 ニーケットは眉間に皺を寄せた。

「何が駄目なんや?

「朱雀の使用がだ」

「何でや!

 このままにしといたら、カイスは死ぬんやで!

 ニーケットは壁際に背中を預けて立っていたティノの胸倉をつかみ上げた。

 ゴマ粒大の瞳が細められ、さらに感情を隠していく。

「死なない」

「だからその根拠はなんや?

 それに、おいら何度もカイスの治療をして来たやないか。

何で今更使用不可なんていうんや?

 ティノの頑なな態度に、ニーケットは胸倉を掴む手を緩め、強い調子で見据えた。

 唇を噛み締め、ティノは視線を床へと落としている。

「お前、どこまで覚えてる?

 ふと、ティノはそんな事を問いかけて来た。

「何をや?

「朱尽が崩壊した、あの時の事だ」

 瞼を瞬いた後、ニーケットは苦笑を零した。

「忘れる訳ないやないか」

「……ああ、そうだな」

 しかしティノの表情は固いままだった。

「カイスに朱雀を使ってはならない」

「だからなんでや!

「どうしてもだ」

 ニーケットはティノを見据えた。

 ティノがカイスを無体に見捨てようとする事だけはないと知っている。

 だが、どうしてこんなにも頑固に治療を拒むのか、それがニーケットには不思議でならなかった。

「おいらに言えへん事なんか?

「……」

 ティノは沈黙した。

閉じる直前に僅かに動いたゴマ粒大の瞳が、隠し切れない迷いを示していた。

「今は、まだ」

 ぽつりと、ティノはそれだけ言った。

「影響が見えない。

自覚する事で自壊を招く事もある」

「……?

 暫し黙したままティノを見据えていたニーケットは、ふっと短く息をついた。

「おいらに対して分からない事言うて、煙に巻く男やないからな、ティノは。

本当の事言てるんやろ。

朱雀は使用せん。

そやけど、普通に治療するならええんやろ?

 漸くティノは表情を緩め、ニーケットを見上げた。

「ああ。

頼む」

「分かった。

任せてや」

 どんと、ニーケットは胸を叩いて微笑した。

 

 

 魔王軍本城、ドンファリオンの最上階の1階下にある総大将室にて、ハオ=ランゼルは強張った表情を浮かべていた。

 視線の先には副官席。

しかし、座っているべき人の姿はなかった。

 昨日、結局ルイは総大将室にも自宅にも帰って来る事はなかったのだ。

 何故。

 はにかむような微笑と共に手を振って去っていったルイの背中が何度も甦ってくる。

 机の上に拳を乗せ強く握り締めた、その時だった。

 総大将室の扉がノックされた。

「入れ」

 ハオの許諾の声に呼応して入って来たのは、総大将室の勤務官の1人だった。

「総大将!

 顔色が唇の先まで蒼白となっている。

「あの、先程こちらの書状が届きました」

 勤務官はよろめく足取りで総大将机までやって来ると、手に持っていた書類を差し出した。

 ハオは息を詰めた。

 無意識に立ち上がり、机を叩いた。

「何だこりゃ!

「持って来たのは、魔王直属の親衛隊の1人です」

 震える唇を噛み締める。

それでも止まらず、力を込めた先から血の味が滲み出た。

 書類には「解雇通知」と書かれていた。

 総大将副官、ルイ=ヒエンを解雇する、と。

 最下部に記されていた魔王の書名に目をとめた瞬間、くしゃりと手の中で書類が握りつぶされた。

「ふざけんじゃねえぞ、魔王!

 走り出したハオを呼び止めたのは勤務官だった。

「待って下さい、総大将!

「待てるか!

 こんな横暴、許せるはずがねえだろ!

「真実なのですか?

 勤務官の言葉が分からずに、ハオは怪訝な面持ちで足を止めて振り返った。

「何がだよ?

「その書類に書かれている事がです」

「解雇の事だろ?

 真実な訳ねえだろ!

「違います。

その理由です」

 ハオは目を瞠った。

太文字で書かれていた部分しか目にとめなかったので、解雇理由に関して読んでいなかったのだ。

 手の中で皺だらけとなっていた書類をもう一度開き、ハオはそのまま息を詰めた。

「人間、なんですか?

 ルイ副官は」

 勤務官の追い討ちをかけるような声がどこか遠くに感じられた。

 ハオは全身の血流が凍りついたように動く事ができなくなっていた。

 解雇理由は、種族相違。

 「ルイ=ヒエンは、魔族と偽った人間の間者なり」

 そう書かれていた。

<34>

 

 魔族には永遠が約束されている。

 死ななければ続く、恒久の生。

 故にいつかの別れなど、覚悟する必要はなかった。

 ずっと一緒に居られると、居てくれると、無条件で信じていたんだ――。

 

 室内には重苦しい雰囲気が漂っている。

それは主に、1人の存在から放出されている気配のせいであった。

 質量の増加に反比例して光明を減退させたようなその空気の中をものともせずに同僚は筆を走らせている。

その様子に視線もくれず、ハオ=ランゼルはソファーの背もたれに顔を伏せたまま唸り声を上げ続けていた。

「ううううううう」

「総大将」

 呆れながらも感情は全く見せない表情で参謀長副官を務める聡明な男が咎める目線を向けた。

「参謀長の仕事の邪魔になりますので、早々にご退出願います」

「うううううう」

 さっぱり聞いていないのか、ちっとも聞こえていないのか、ハオ=ランゼルの呻き声が止む気配はなかった。

 実力行使に出ようかと、口元を引き結んで歩み寄ろうとした副官を、視線で制して、参謀長アギタ=セスティアナは書類を処理する手を止めた。

「多少荒い風の音だと思えば、害はないわ」

「参謀長がそうおっしゃるのであれば放置いたします。

ですが、邪魔になった時はおっしゃってください。

あらゆる手段を用いて排除いたしますから」

「ありがとう。

その時はお願いね」

 ふふっと軽やかに笑って、アギタは敬礼して退出する副官を見送った。

 そのまま机上へと視線を戻し、筆先の動きを再開する。

 暫時の時が流れた。

「ティア」

 ハオが、独特の呼び名でアギタを呼んだ。

「おめえは知ってたのか?

 何をとは口にしなかったが、アギタには無用の事でもあった。

 顔も上げずにアギタは答えた。

「貴方、誰に問いかけてると思って?

 愚問だと言わんばかりの言葉に、ハオの唸り声はさらに増した。

「そーだよなー」

 魔王軍の頭脳的存在であるアギタは、あらゆる情報収集にも長けている。

知らない事など希少に違いないとハオは評していた。

 いつまで経っても浮上する様子のない同僚の様子に、短くアギタは息をついた。

「大事な事は何?

「……ん」

 漸く唸る事をやめて、鈍足ながらも思考を動かし始めたのか、ハオはソファーの背もたれに額をあてた。

「ルイが俺の副官である事」

「人間であっても構わない?

「んなこたあ、聞くまでもねえ。

俺は知ってたんだと思う。

あいつが、完全な魔族じゃねえって事を」

 椅子から立ち上がり、背後の窓に近づいてアギタは外界を見下ろした。

「おめえは、どうなんだよ」

 ハオが呻き声を上げ続けていたのは、それを知りたかった故なのだと、アギタは察していた。

 緩慢に双眸を閉じる。

「人間は殲滅すべき対象よ」

「……」

「ヒエンは人間ではないわ。

――あの男なら私と同じ答えを導くでしょうね」

 珍しくも心情を吐露するように自嘲のような微笑を口端に浮かべていたが、

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